拒絶理由通知の趣旨

特許は、出願されたものを審査官が審査して(47条)、「これは要件を満たすな~」=「拒絶理由(49条)がないな~」となると特許権が与えられる。

(審査官による審査)
第四十七条  特許庁長官は、審査官に特許出願を審査させなければならない。

 (拒絶の査定)
第四十九条  審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
一  その特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が第十七条の二第三項又は第四項に規定する要件を満たしていないとき。
二  その特許出願に係る発明が第二十五条、第二十九条、第二十九条の二、第三十二条、第三十八条又は第三十九条第一項から第四項までの規定により特許をすることができないものであるとき。
三  その特許出願に係る発明が条約の規定により特許をすることができないものであるとき。
四  その特許出願が第三十六条第四項第一号若しくは第六項又は第三十七条に規定する要件を満たしていないとき。
五  前条の規定による通知をした場合であつて、その特許出願が明細書についての補正又は意見書の提出によつてもなお第三十六条第四項第二号に規定する要件を満たすこととならないとき。
六  その特許出願が外国語書面出願である場合において、当該特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にないとき。
七  その特許出願人がその発明について特許を受ける権利を有していないとき。

 なんだけど、要件を満たさない場合に弁明や補正のチャンスなしに一発アウトにするのは酷だし、審査官にも間違いがあるから、拒絶査定を行う前には拒絶通知をするよう義務付けた(50条)

(拒絶理由の通知)
第五十条  審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。ただし、第十七条の二第一項第一号又は第三号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に限る。)において、第五十三条第一項の規定による却下の決定をするときは、この限りでない。

 

包袋禁反言の法理(file-wrapper estoppel)とは

日本語で読んでも英語で読んでも中二病っぽいこの単語、ちなみにestoppel1単語で「禁反言の法理」と言う意味になる。要するに「前に主張したことと矛盾する主張をしてはいけない」という原則のこと。

実例をここに上げようとして調べていたら、禁反言の法理以外に関しても色々と書かれて判例へのリンクが張られた面白いページを見つけたのでリンクを張っておく。後でじっくり読もう。特許権侵害 - 塚原国際特許事務所 

今回例に挙げる判例はこちら http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=10577 簡単に言うと

Aさん「こんな発明を考えました!ラックの歯が~~という特許です!」
特許庁「それにはこういう先行事例があるよ」
Aさん「その先行事例では歯が一本しかなくて、そこに全荷重がかかるから、その歯が折れるとヤバいですよ!」
特許庁「そうか、じゃあ特許を認める」

といういきさつがあった上でAさんが

Aさん「Bさんの製品はうちの特許を侵害している!」
Bさん「え、全然違うじゃん?歯が1個だし」
Aさん「歯が複数だとはどこにも書いてないだろ!」

という訴訟を起こした。で、裁判所は「特許に文章として反映されてないとはいえ、意見書で『先行事例は一本だからヤバい』と答えている以上、歯が1本の場合は技術範囲から除外していると考えるべき」と判断した。これが包袋禁反言の法理。

均等侵害とは

均等侵害と言う言葉だけ見ると、何かを均等に侵害しそうだけど、そうではなく「特許請求の範囲とはちょっと違う構成なんだけど、同じ(均等)構成だとみなす、よって侵害」ということ。

なぜかというと、申請の段階ですべてのあり得るバリエーションを網羅するのはとても困難だけど、申請された記述を見て抜け道を探すのは簡単だから、バランスを取る(衡平)のためにはそういう解釈が必要から。条文では規定されていないが、判例がある。

法律には著作権がない

憲法その他の法令は著作権法第13条によって著作権の目的となることができない。

(権利の目的とならない著作物)

十三条  次の各号のいずれかに該当する著作物は、この章の規定による権利の目的となることができない。
一  憲法その他の法令

 というわけで特許法とか著作権法とかの条文を元に、自分が参照とかし易い形にまとめようかな…。

著作権が切れた美術品の写真を取って書籍にして売るのは合法か?違法か?

著作権が切れた美術品の写真を取って書籍にして売るのは合法か?違法か?

自分が所有している著作権の切れた美術品の写真を売るのは、まあ誰もが合法だと思うだろう。

他人が所有している場合はどうか?美術館が所有していて「そんな本を販売されたらうちの収益が損なわれるじゃないか」と文句を言ったらどうなるか?

顔真卿自書建中告身帖事件(がんしんけいじしょけんちゅうこくしんちょうじけん)とは、唐代の書家顔真卿の真蹟である「顔真卿自書建中告身帖」の所有者である博物館(財団法人)が、この告身帖を無断で複製し販売した出版社に対して、所有権(使用収益権)の侵害を理由に、出版物の販売差止とその廃棄を求めた民事訴訟事件である。最高裁の判決は、当該著作物はパブリックドメインであるとし、博物館側は敗訴した。

顔真卿自書建中告身帖事件 - Wikipedia

所有権は物理的な有体物を保護する権利であって、美術品の「表現」という無体物の複製専有の権利(著作権の複製権)とは別物である。著作権が切れたからと言って、所有権を持っている人が複製の権利を専有できるわけではない。

(複製権)
第二十一条  著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

で、ここまでは判例なのだけども、このケースでは今の所有者の前の所有者から撮影の許可は得ているんだよね。これを得ていなかった場合はどうなるのだろう?

判例には「許可を得ているから複製してよいのだ」ということではなく「複製権が消滅しているから複製してよいのだ」という書き方なので、許可がなくても合法と考えてよいだろう。

さらに踏み込んで、美術館が館内での撮影を禁止していたとして、その館内で撮影して出版した場合、美術館はその販売行為に対して差止請求や損害賠償請求ができるだろうか?

まず、著作権の切れているものを複製して販売する行為は不法行為ではないので、差止請求権はない。著作権が切れていなければ著作権法に基づいた差止請求ができたのだが…。

損害賠償に関しては、私有地の管理者は施設管理権を持ち、写真撮影を禁止することは合法な権利行使だ。だからそこで写真を取るのは違法行為だし、違法行為に基づいて損害を与えられたときにはその損害に対して賠償を請求する権利がある。

民法第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

先使用権

特許法に出てくる権利の中で出願前に発生する権利の一つが「先使用による通常実施権」(通称、先使用権)だ。

(先使用による通常実施権)
第七十九条  特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。 

先使用権は多くの国に存在する権利。残念ながらアメリカはビジネスモデル特許だけなのだけど。

http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken_kouhyou/h22_country.pdf

でまあ、これがなんと譲渡できるわけです。判例を見てそれを知って興奮していたのだけど、あんまりわかってもらえなくて悲しい。

出願なしに発生する権利なので低コストだし、特に期限はない物なので、何か新しい技術的アイデアを思いついたらきちんとエビデンスを残して「実施の準備」をするとよいと思う。あなた自身がビジネスを成功させることができなくても、何年かたってから誰かが同じ発明でビジネスをやって成功させた暁には、参入したい他の会社に通常実施権を売却することができる。

サポート要件とは

特許法36条6項の1で定められている「特許請求の範囲は、発明の詳細な説明に記載したものでなければならない」という要件のこと。

(特許出願)
第三十六条  特許を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならない。
一  特許出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
二  発明者の氏名及び住所又は居所
2  願書には、明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付しなければなら6  第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一  特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。

 ところで、この条文を文字通りに解釈すると、請求項には実施例とイコールなものしか書けないことになるけども、実際には「実施例は例示にすぎない」として、ある程度の上位概念化が行われる。それがどこまで可能なのかというのは難しい問題の一つ。

特許・実用新案審査基準 | 経済産業省 特許庁の第II部 明細書及び特許請求の範囲、第2章 特許請求の範囲の記載要件、第2節 サポート要件(特許法第36条第6項第1号)に詳細の解説がある。