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特許を取られている時

最近僕は、特許の面白さに気付いてノリノリでブログを書いているわけだけども、何年か前の僕は新しいアイデアを思いついてノリノリでプログラムを書いて、それによく似た特許があると気付いて激しく傷つき特許を憎んでいたものだった。

あえて言おう。当時の僕はただの馬鹿だったと。特許権がどういうものかも学ばずに、勝手に委縮し、作りかけのプロトタイプを投げ出し、それを「特許を取った相手が悪い」と他人のせいにしていた。特許と言う制度は発明を奨励し産業の発達に寄与することが目的で存在する。妨げるためにあるのではない。

(目的)
第一条  この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。

 というわけで、自分の作ったプロトタイプによく似た特許がある場合の話。

まず昔の僕は特許と特開の区別がついてなかった。昨日の記事にかいたけど「特開、未審査、出願から3年経過」のケースは「この発明はみなさん自由に使って構いません」という意味だ。安心して使ってよい。

特開ではなくきちんと特許になっている場合。もうその発明は使えない?いやいや、そんなことはない。まず特許権とは何なのかおさらいしてみよう。

特許権の効力)
第六十八条  特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。

 「業として実施」とは、ざっくり言えば、それを使ってビジネスをするってことだ。なので業として実施しないなら特許権の効力外である。自分で使うものを作ったり、友達のために作ってプレゼントしたりする場合、それが特許の範囲内でも問題ない。

次に、例えば会社員研究員が将来の製品のために研究をしているようなケース、これは研究が業務であるのでダメなのではないかと心配するかもしれないけど、これもOK。

特許権の効力が及ばない範囲)
第六十九条  特許権の効力は、試験又は研究のためにする特許発明の実施には、及ばない。

 つまり、特許公報を見て「ほほう、競合他社はこんなことをやってるのか、ちょっとこの方法に改良すべき点がないか実際に作って試してみよう」なんてのは完全に白なわけだ。

次にビジネスでやっている場合を考えよう。自分が何かを思いついて、それを出願することなくビジネスに使っていて、後から他人が特許を取っていると知った場合。さすがにダメか?

ここで確認するのは相手の特許の出願タイミング。自分が相手の特許の出願より先に、その発明を使ったビジネスの準備を日本国内で始めていた証拠があるなら、たとえ特許があっても使い続けることができる。

(先使用による通常実施権)
第七十九条  特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。

 そうでもない場合、つまり、もしかしたらこっちが先に思い付いていたかもしれないけど、相手の方が先に「私これ思いつきました。公開するので特許権ください」と特許庁に申請してしまった場合、さすがにそれは使い続けられないか~?

そろそろなかなか苦しい戦いになってくるが、まだ手がある。まず「その発明は出願時点以前に知られていた」と主張する手。

(特許の要件)
第二十九条  産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一  特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二  特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三  特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明

出願前に発行された刊行物に載っているものは特許にならない。出願前に売られていたものに使われている技術も特許にならない。これを指摘することで相手の特許を無害化する。

もう一つの手は、あなたは相手と独立に同じ発明をしたわけだから「それを思いつくのは簡単なことであって、それを思いついたからと言って特許を認めるのはおかしい」と相手の発明の進歩性を否定する手だ。

(特許の要件)
第二十九条(中略)
2  特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。 

他にも細々と方法はあるが、これらの不備をついて、特許権を設定する要件を満たしていない、と異議申し立てをする。

(特許異議の申立て)
第百十三条  何人も、特許掲載公報の発行の日から六月以内に限り、特許庁長官に、特許が次の各号のいずれかに該当することを理由として特許異議の申立てをすることができる。この場合において、二以上の請求項に係る特許については、請求項ごとに特許異議の申立てをすることができる。
一  その特許が第十七条の二第三項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願(外国語書面出願を除く。)に対してされたこと。
二  その特許が第二十五条、第二十九条、第二十九条の二、第三十二条又は第三十九条第一項から第四項までの規定に違反してされたこと。
三  その特許が条約に違反してされたこと。
四  その特許が第三十六条第四項第一号又は第六項(第四号を除く。)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたこと。
五  外国語書面出願に係る特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にないこと。

 まあ、大変ではある。

こういう対抗手段がもろもろすべて取れない場合。つまり、相手の特許が確かに新規性と進歩性があり、自分の実施準備より先に出願されており、自分はビジネスに使おうとしている場合。

もう素直に「売り上げの何%払うから使わせてもらえませんか」とライセンス交渉をするべき。それでダメと言われたらあきらめて撤退すべき。

だけども思考実験としてあくまで何とかしようと考えてみる。

まず、賠償請求も差し止め請求も、特許権者がやらなければいけない。なので、特許権者に知られなければ大丈夫。特許技術を使ってないと主張すれば…

(具体的態様の明示義務)
第百四条の二  特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、特許権者又は専用実施権者が侵害の行為を組成したものとして主張する物又は方法の具体的態様を否認するときは、相手方は、自己の行為の具体的態様を明らかにしなければならない。ただし、相手方において明らかにすることができない相当の理由があるときは、この限りでない。

残念、侵害を疑われて、侵害していないと主張する場合はどういう手法でやってるのかを公開しなきゃいけない。

ならば、特許をうっかり侵害してしまったけど、それに気づくのは無理だし、自分は悪くないと主張すれば…

(過失の推定)
第百三条  他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。

残念、侵害の事実があった時点で、過失があったものとされる。つまり「特許として公開してあるのに、それを確認していなくてうっかり侵害してしまった」というのは損害賠償するべき重大な過失であるということだ。

損害賠償の金額で争えば何とかなるか?

(損害の額の推定等)
第百二条  特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

つまり、特許権者側があるデバイスを1万円で売って8000円儲けており、侵害者側がそれを2500円で売って500円儲けていた場合、そして1万個売れていた場合、支払うべき金額は8000円×1万個だ。安売りは死。

じゃ、じゃあ特許権者側がビジネスをしていないなら、売り上げもないから大丈夫?

2  特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。 

残念、特許権者がビジネスをしていなくても、侵害者の利益が特許権者の損害額になる。利益全部よこせということ。ぐぬぬ。ではこちらのビジネスが利益を上げていなかったら払わなくてよい?

3  特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。 

 2000円で1万個売って利益0だったとしても、特許権者側が「こういうケースでは価格の5%がライセンス料だよね普通」と主張して認められた場合、100万円が「本来払われるべきだったのに払われなかったライセンス料」として請求されることになる。

見事なまでに抜け道をふさいであるなぁ…。

あとは、有限責任の法人で、請求されたら潰すとかしかないか?