論理式としての請求項

論理式として請求項をとらえる話を、適当な特許として4ポットヨーグルト史上初!ヨーグルトが付着しにくいフタに!|森永ビヒダスヨーグルトBB536の東洋アルミニウム特開2010-184454を例にして話したいと思う。

この特許の特許請求の範囲はこんな感じになっている

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材層及び熱接着層を有する積層体からなる包装材料であって、前記熱接着層が包装材料の一方の面の最外層として積層されており、前記熱接着層が他の層と隣接していない最外面に一次粒子平均径3~100nmの疎水性酸化物微粒子が付着している包装材料。
【請求項2】
疎水性酸化物微粒子の付着量が0.01~10g/m2である、請求項1に記載の包装材料。
【請求項3】
疎水性酸化物微粒子が三次元網目状構造からなる多孔質層を形成している、請求項1又は2に記載の包装材料。
【請求項4】
疎水性酸化物微粒子のBET法による比表面積が50~300m2/gである、請求項1~3のいずれかに記載の包装材料。
【請求項5】
疎水性酸化物微粒子が疎水性シリカである、請求項1~4のいずれかに記載の包装材料。
【請求項6】
疎水性シリカがその表面にトリメチルシリル基を有する、請求項5に記載の包装材料。
【請求項7】
熱接着層側の最外面に内容物が接触可能な状態で当該内容物が包装材料に包装されてなる製品のために用いられる、請求項1~6のいずれかに記載の包装材料。
【請求項8】
少なくとも基材層及び熱接着層を有する積層体からなる包装材料を製造する方法であって、当該熱接着層の表面に一次粒子平均径3~100nmの疎水性酸化物微粒子を付着させる工程を含む包装材料の製造方法。
【請求項9】
前記工程中及び/又は前記工程後に積層体を加熱する工程をさらに含む、請求項8に記載の製造方法。

 今回解説するのは「少なくとも基材層及び熱接着層を有する積層体からなる包装材料であって、前記熱接着層が包装材料の一方の面の最外層として積層されており、前記熱接着層が他の層と隣接していない最外面に一次粒子平均径3~100nmの疎水性酸化物微粒子が付着している包装材料」という長ったらしい文章について。

請求項の読み方を学んだことがなくて、日本語として読もうとすると、あまりの長ったらしさとダラダラした書き方にげんなりすると思う。プログラミング言語の学習と同じで「なぜこれがあるのか」を考えるとわかりやすいのではないだろうか。

特許って言うのは何かと言うと「発明をした人が、その発明を公開することと代償に、その発明を実施する権利を占有する」という制度なわけです。

特許権の効力)
第六十八条  特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。(以下略)

 で、占有するというからには「どこからどこまでが特許権者の権利の範囲か」が明確じゃなきゃいけないわけです。それを明確化するのがこの「特許請求の範囲」なわけ。この記述の目的は「任意の実施例xに対して、xが範囲に入るかどうかを明記すること」です。つまりプログラマ的に言えば、TrueかFalseを返す関数なわけです。

で、「少なくとも基材層及び熱接着層を有する積層体からなる包装材料であって、前記熱接着層が包装材料の一方の面の最外層として積層されており、前記熱接着層が他の層と隣接していない最外面に一次粒子平均径3~100nmの疎水性酸化物微粒子が付着している包装材料」というのは「基材層及び熱接着層を有する積層体からなる包装材料である and 前記熱接着層が包装材料の一方の面の最外層として積層されている and 前記熱接着層が他の層と隣接していない最外面に一次粒子平均径3~100nmの疎水性酸化物微粒子が付着している and 包装材料である」という論理式なわけです。

で、andでつながれた項なので、この中の1項でもFalseであれば全部Falseになるわけです。なので長ったらしい請求項があっても、恐れることなく、むしろ「こんだけ項が多かったら抜け道だらけだぜ」という余裕の表情で1項ずつ充足するかどうかをチェックしていけばよいわけです。

ちなみに請求項1と請求項2はorでつながれるわけですが、もう一度請求項2を見てみましょう。

【請求項2】
疎水性酸化物微粒子の付着量が0.01~10g/m2である、請求項1に記載の包装材料。

なんと条件式の中に「請求項1に記載の」が入っている!請求項1がFalseならこれも自動的にFalseじゃーん!

この特許が特別おかしいわけではなく、だいたいの特許がこういう冗長な論理式になっています。それはなぜなのか?

特許が「特定の技術範囲の占有権」であるため、出願者は当然「なるべく広く占有したい」と思うわけです。一方で審査官は「既存の発明と範囲かぶるなら認められない」と言うわけです。

というわけで出願者は「自分のビジネスのためにはA and B and Cの領域が確保したいな」と思っても、広く取れるチャンスを狙って「A or (A and B) or (A and B and C)」と出願するわけです。で、審査官が「Aの技術領域に属する既存の発明があるからこの請求項は認められない」と言った時には「じゃあAを削って、(A and B) or (A and B and C)にします」という補正手続きをするわけです。